地域とともに歩む病院を目指して
まずは災害列島であることの不安です。ここ数年、地震だけでも毎年激甚災害に指定される地震が起きています。そこに梅雨前線や秋雨前線、台風被害を加えると、年に数回の激甚災害がこの日本で起きている事実があります。謙仁会グループでは、今まで東日本大震災(2011年)、熊本地震(2016年)、九州北部豪雨(2019年)、能登半島地震(2024年)に日本医師会災害派遣チーム(JMAT)として複数回の活動をして参りました。日本に住む者として、日本で困っている地域があれば助けに行くのが当然だという考えだけでなく、いつ当地域で災害に見舞われるかわからない中で常に準備を怠ることなく対処するためにも災害派遣は必要だと考えています。
そして少子高齢化の波です。年々、出生数は低下し、死亡数が多くなってきている事実、この伊万里でも全国と同様で高齢化率も上昇傾向にあります。医療や介護の需要が当然ながらある中で、それを支える若い医療・介護人材がいなければ安心して医療・介護を受けることができません。謙仁会グループでは、外国人を積極的に導入して日本の医療・介護を支えていただけるような仕組みを整えてきました。また、中学生や高校生といった早い段階から医療や介護を経験してもらい、興味を持っていただくための医療体験セミナーを開催することで、医療職・介護職を目指してもらう取り組みも行っております。
地域医療を守るためには、災害派遣や人材育成に力を入れつつ、地域とともにその在り方を考えていくことが必要ではないか、また、そういう時代が来たのではないかと考えています。コロナ禍を経験して、医療・介護の基盤が揺るぐようだと安心して住むことができなくなると感じました。コロナ禍の初期の頃は、どこに行っても発熱があると診てくれない、診てもらえるところに行ったが何時間も待たされた、といったことが全国で頻発しました。私たちの病院もできる限りのマンパワーで発熱外来を回しましたが(実際佐賀県内ではトップクラスのPCR件数をこなしましたが)、すべてに対処できたわけではありませんでした。ある一定の患者さんには断らざるを得なく、ご迷惑をおかけしたと感じたこともありました。生活の基礎である医療が滞っては、安心して住める町ではなくなると考えるようになるきっかけでした。ただ、私たち一つの病院が考えるのではなく、地域全体で医療を支え、医療人材を育てる必要があるとも感じました。2024年2月にこの地域で医療人材が少ないこと、そして地域全体で育成する必要があることを地域に住む方に知ってもらうためにクラウドファンディング(https://readyfor.jp/projects/yamamoto2024)を立ち上げました。どれだけこの地域の高齢化とともに医療人材が枯渇しているのか、地域全体で住民も理解していただき、みんなで医療人材を育てる土壌を造りたい、そういう想いで始めました。ありがたいことに予想を超えた皆様の御支援をいただき、また励ましの言葉、ご賛同のお言葉もいただきました。
今後、日本全体で当地域のような地域はたくさん出てくることが予想されます。そうなってからでは遅い、その前にそれぞれの地域で考えなければならない、そう思います。
●山元記念病院 理念
地域住民に密着した病院として地域医療の向上と予防医療・福祉に貢献する。
●謙仁会 理念
一.患者さんは常に正しい。
一.頭を下げよ。
一.ベストを尽くせ。
●患者さんの権利
医療に関して、患者さんは人間としての尊厳を大切にされ、以下の権利があります。
1.患者さんは、人格を尊重した適切な医療を受ける権利があります。
2.患者さんは、自由に病院、医療施設を選ぶ権利があります。
3.患者さんは、治療方法などを自ら選択・決定する権利があります。
4.患者さんは、自身の医療情報について説明を受ける権利があります。
5.患者さんは、個人情報を守られる権利があります。
●患者さんへのお願い
医療は患者さんと医療従事者が対等の立場で相互の信頼関係の上で行われます。そこで、患者さんは次のことをお守りください。
1.患者さんは、積極的に医療に参加する義務があります。
2.患者さんは、病院の規則を守る義務があります。
3.患者さんは、医療費を支払う義務があります。
●謙仁会の家風
4月1日を境として、謙仁会山元外科病院及び楽寿園老健施設の人事移動が例年の如く行われた。それによって多数の新人が就職して来た。「日に新たに、日々に新たに」と言う言葉があるが、人が入れ代わることは仕事場の活性化に役立ち良いことだと思っている。新風を送り込むという意味で期待が大きい。
特に謙仁会の職員は看護学校や准看学校に入学する者、或は栄養士.X線技師その他新たに准看や正看の免許を取得した者、介護職員など様々である。病院、老健施設を合わせると、医師職員を含めて職員の数は二百数十人の大世帯になって来た。そこで新しい人たちの新風は有難いことであるが、一方山元外科病院、老健施設には伝統という家風がある。これは山元外科病院が創設されてから、堂々として今日まで40年間試行模索し乍ら自然と出来上がって来た家訓とも言うべきもので、この大原則は守って欲しいし、新風によって更に発展させて欲しいと思っている。
この大原則とは「患者さんは常に正しい。頭を下げよ。ベストを尽くせ」と言う標語である。
「患者さんは常に正しい」
患者さんは身体の病、心の病、悩みと痛みがあるため病院や施設に救いを求めて来られている。不安で一杯である。それ故に医者や看護婦(士)の一寸した言葉、一寸した動作、笑顔のあるまなざし、その他患者のための熱心な医療への探究心などの有るや無しやを大変気にし、一喜一憂しておられる。深夜の廊下の灯を一睡も出来ずに見つめて、心の悩み・将来のこと・職場のこと・家族のこと等を思い続けている患者さんも居るであろう。
「頭を下げよ」
患者さんの尊厳に対し頭を下げることであって、おじいさん、おばあさんと弱者呼ばわりしてはならない。はっきりお名前を呼ぶことである。又、患者さんには勿論、心配して来た家族や患者への慰問の人にも頭を下げ声をかけてあげることも良いことだ。
「ベストを尽くせ」
己の持てるだけの力と温かい心と智慧を一杯出し切って奉仕せよということである。以上が山元外科病院の家訓であって、要するに患者さんの事を第一で考え、自分のことは後から第二番目に考えることである。修業僧みたいなことだと思うかも知れないが、私はそうやって来た。具合の悪い人の病床には足繁く夜中でも何回でも訪問して来た。それでも己の智慧の足りなかった事に幾晩ももがき眠れぬこともあった。常に自分の心は患者の家族と共にあった。
さて、名医と言われる人が居た。それは握手して廻り、患者さんと話を交わすだけで特に才たけた人ではなかったという。又、最近読んだ本には、名医に共通したことは、患者さんにさわる、話をよく聞いてやる、そして患者さんを誉めるという三点であった。この話は単に医者だけではなく看護婦も又、介護人さんにも同じく心掛けることだと思う。よく説明してくれる医者が良い医者だという人もあるがインフォームド・コンセントと今は英語になっているが古来から日本にその美風はあった。これらの家風は新入社員のみならず外来の事務員も検査、薬局、リハビリ、X線室、給食室、訪問看護、支援センター、ホームヘルパーすべての医業にたずさわる者も新めて心掛けるべきことだと思っている。私共は聖職者であり、普通の労働者とは違うのだと誇りを持とう。