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●肝がん治療センターのご紹介


「肝がん」には、その成因により原発性肝がんと転移性肝がんに大きく分けられます。原発性肝がんは肝臓を原発とするがんで、その約95%が肝細胞がんで、残り約5%が胆管細胞がんです。肝細胞がんの90%以上に肝基礎疾患としてB型肝炎やC型肝炎、肝脂肪の存在があります。一方、胆管細胞がんには肝細胞がんのような肝基礎疾患の存在を認めません。転移性肝がんは原発巣が肝以外の臓器であり、原発巣から肝へ転移を認めた病態のことです。経門脈的に転移する大腸がん肝転移に対する肝切除が良い適応ですが、その他に胃がんや乳がんなどの肝転移の切除例などが報告されています。
 

・肝細胞がん

肝細胞がんの治療戦略としては、肝癌治療ガイドラインのアルゴリズム(図1)を参照にしてください。つまり、肝機能が比較的良好な3個以内の肝細胞がんには外科的切除か局所療法が有効であり、肝機能が比較的良好でも4個以上であれば塞栓か動注が推奨されます。近年では内服の抗がん剤も保険適応になったため、組み合わせた治療で生存期間の延長が期待されています。肝機能が不良な肝障害度分類Cの症例においては条件によっては肝移植の適応になります(ミラノ基準)。
 

 図1 肝癌治療ガイドラインのアルゴリズム(画像をクリックすると大きくなります)

・胆管細胞がん 

病巣の完全切除が可能であれば、原則として切除を行います。ただし、肝病巣の完全切除が不能な場合や、肝門や傍大動脈リンパ節転移の存在、遠隔転移の存在がある場合には切除を行うメリットが少なくなります。切除のメリットが少ない場合は抗がん剤治療を行うことになります。
 

・転移性肝がん 

特に大腸がん肝転移に対する肝切除については、多数の報告があり有用性が証明されています。この場合、原発巣がコントロールされ、切除適応となるような肺転移巣以外の肝外病変がないことが手術適応の条件と言われていました。しかし近年では大腸癌の抗がん剤治療が著しく進歩しており、手術適応を拡大して切除を行い、抗がん剤を用いることで生存期間が延長できることが期待されていますが、その基準は施設により異なります。その他のがんの肝転移の場合は、肝転移巣が全身病の一つである場合が多く、肝切除の適応にならないことが多いのが実状です。そのために大腸がん以外の肝転移に対する肝切除のまとまった報告は少なく、その有用性は実証されていませんが、長期生存を得るためには手術以外の方法がなく、原発巣がコントロールされており、かつ肝外転移を認めない場合には肝切除が考慮される場合があります。
 

肝がんに対する外科的切除の適応は肝機能条件と腫瘍条件を総合的に評価して決定されます。
 
Child-Turcotte-Pugh分類(表1)や肝障害度(表2)、幕内基準(図2 )を参考にして手術の検討がなされます。
 

表1 Child-Turcotte-Pugh分類 

臨床および検査測定項目 異常増加に伴う獲得点数
1 2 3
脳症(グレード なし 1–2 3–4
腹水 なし 軽度
(利尿剤にて管理可能)
利尿剤治療下で
最低でも中等度
PT-INR < 1.7 1.7–2.3 > 2.3
血清アルブミン値(g/dL) > 3.5 2.8–3.5 < 2.8
血清ビリルビン値(mg/dL) < 2 2–3 > 3
*スコアリング:5-6点、グレードA;7-9点、グレードB;10-15点、グレードC
1度:睡眠障害、集中力低下、抑うつ、不安または興奮性 †
2度:嗜眠、見当識障害、短期記憶障害
3度:傾眠、錯乱
4度:昏睡  
 

表2 肝障害度分類

臨床および検査測定項目 肝障害度
A B C
腹水 なし 治療効果あり 治療効果少ない
血清ビリルビン値(mg/dL) < 2 2–3 > 3
血清アルブミン値(g/dL) > 3.5 3–3.5 < 3
ICG R15 (%) < 15 15-40 > 40
PT (%) > 80 50-80 < 50
各項目別に重症度を求め、そのうち2項目以上が該当した肝障害をとる。2項目以上の項目に該当した肝障害度が2ヵ所以上に生じる場合には高い方の肝障害度をとる。
 

図2 幕内基準


 

・腫瘍条件 

原発性肝がんの場合、その進展の特徴として門脈を介した肝内転移が知られています。そのため、肝機能が許す範囲内でがんの存在する門脈支配領域を系統的に切除することが望ましいとされています。一方、転移性肝がんは腫瘍と切離断端との距離さえ保たれていれば部分切除でかまわないとされています。 
 

術式には大きく分けると系統的肝切除と非系統的肝切除があります。 
系統的肝切除

門脈の支配領域に従って肝臓を切除する方法です。
左肝切除、右肝切除、区域切除、亜区域切除
 

 
非系統的肝切除
門脈の支配領域とは関係なく肝臓を切除する方法です。部分切除、核出術
 

肝に代わって肝の機能を代償する臓器は無く、また解剖学的にも3つの血管(動脈・門脈・静脈)と胆管より構築される複雑な脈管構造を持つ臓器であるため、これに関連した合併症が起こり得ます。以下に代表的な合併症について列挙します。肝不全、出血、胆汁漏、腹腔内感染、胸水・腹水貯留など。
 

肝細胞がんと転移性肝がん、胆管細胞がんでは手術以外の治療法の適応が異なっているので、それぞれの手術以外の治療法を説明します。 
 

・肝細胞がん 

肝細胞がんの場合、肝癌治療ガイドラインのアルゴリズム(図1)に記載されている治療法が存在します。以下にそれぞれの適応と方法を説明します。 
 
経皮的局所療法
比較的肝機能良好で腫瘍が3cm、3個以内の場合が良い適応となります。エコー下で局所麻酔を用いて経皮的に腫瘍を穿刺し、ラジオ波で焼灼(radiofrequency ablation; RFA)もしくはマイクロ波で凝固(percutaneous microwave coagulation therapy; PMCT)、またはエタノールを注入(percutaneous ethanol injection; PEI)する方法です。ラジオ波の場合1個の腫瘍を焼灼するのに10分~15分かかります。手術より侵襲が低い治療法ですが、手術と比較すると確実性に劣り再発が多いと考えられています。しかし、生存率での優劣は不明であるため、現在初発肝細胞癌に対する肝切除とラジオ波焼灼療法の有効性に関する多施設共同ランダム化並行群間比較試験(SURFトライアル)として検証が始まったところです。 
 
肝動脈(化学)塞栓療法(TACE)
手術や経皮的局所療法が適応とならない肝機能の不良症例もしくは肝内多発の進行肝細胞がん症例が適応になります。肝細胞がんが肝動脈から主に血流の供給を受ける性質であることを利用して、肝動脈まで誘導したカテーテルを用いて腫瘍の供給血管に塞栓物質を用いて塞栓もしくは抗がん剤を注入する方法です。 
 
化学療法
肝外転移巣の存在や肝機能の悪化した症例で、手術や経皮的局所療法、肝動注塞栓療法などの効果が期待できない症例に行われる治療法です。5‐FUやシスプラチン、インターフェロンを用いた化学療法が報告されていますが、症例数も少なく、有効であるという科学的根拠に乏しいのが現状です。しかし、近年分子標的薬であるソラフェニブやスニチニブ、レゴラフェニブの有用性が指摘されるようになってきており、今後が期待されています。 
 
肝移植
手術や経皮的局所療法が適応とならない肝機能不良症例で、腫瘍がミラノ基準内であれば保険適応で肝移植を受けることができます。日本ではほとんどの症例が生体部分肝移植であるために肝移植ドナー(提供者)の問題などがあります。 
 

・転移性肝がん・胆管細胞がん 

転移性肝がんや胆管細胞がんの場合、手術による切除が根治を望める唯一の治療法で、手術以外の治療法としては肝細胞がんで有効であった経皮的局所療法や肝動脈塞栓療法は効果がなく、また、肝移植の適応疾患からも除外されます。この場合、手術以外の治療法としては抗がん剤が適応となります。
 

当院における治療方針は患者さんの体の状態や腫瘍の状況を考慮して治療の選択を相談致しますが、肝細胞癌に関しては基本的には肝癌治療ガイドラインに沿った治療を行います。移植など当院において行えない治療がある場合は、九州圏内の大学病院への紹介はもちろん、御希望があれば東大病院への紹介も行っております。転移性肝癌に関しては、近年のめざましい抗がん剤の進歩のために切除適応の拡大傾向があります。肝臓は脈管が複雑に組み合わさった組織であるため、転移数が多ければ切除不能と考えられがちですが、肝臓外科を修練した目で判断すると、意外と切除可能な場合があることが多いのが東大病院にいた頃の印象です。そのため、セカンドオピニオンも積極的に受け付けております。受診されたい場合は、遠慮なく御電話もしくはメールでお問い合わせください。